Interview

エンジニア
坂本 ✕ 伊藤

CTOを交代し、グローバル水準の開発組織へ〜新旧CTOが語る、2年におよぶ権限委譲計画の裏側〜

2024年11月、ログラスは伊藤 博志が執行役員CTO(最高技術責任者:Chief Technology Officer)に就任したことを発表しました。

これまでCTOを務めた共同創業者の坂本龍太は退任し、取締役となります。
“創業者CTOの退任”は一般的には衝撃的ですが、この退任は2年におよぶ権限委譲計画を基に行われてきたもので、坂本は「胸を張ってCTOのバトンを渡せることを誇りに思います」と語っています。

今回の記事では、権限委譲の背景からグローバルを見据える開発組織の未来まで、新旧CTOの2人の本音に迫りました。

2年間の権限委譲計画とは

ー権限委譲の背景について教えてください。

坂本:ログラスは2019年の創業以来、大きな成長を遂げ、2024年7月にはシリーズBで70億円の大型資金調達を発表しました。また、短期・中長期のプロダクト戦略を発表し、2027年4月までに提供プロダクト・サービス数を20以上に拡大し、複数のカテゴリでシェアNo.1の確立を目指しています。まさに、当社にとって大きな転換期を迎えているところです。

ログラスの経営陣では、「ミッションを実現するために、それぞれのフェーズで必要なリーダーは変わる。その時々に応じて役割を柔軟に変化させることが、急成長企業には不可欠である」との認識を共有しています。

おかげさまで、日本を代表するエンタープライズ企業からの導入が増え、それに伴い、お客様からの要求はより複雑化しています。

さらに、AI分析機能の強化を含む「AI ERP」へのプロダクトの進化や、新規事業の立ち上げに伴う海外開発拠点の開設など、組織の拡大が急務です。このような未知の領域に対する挑戦が続いています。

これらの構想は約2年前から検討しており、次のフェーズを任せられるリーダーを見つけることが、私のミッションとなりました。

そして、2022年に伊藤さんの入社が決まった時から、2年間かけて計画的に権限委譲を進めてきました。

伊藤さんには入社前から「ログラスのCTOを担ってほしい」とお願いしており、彼自身も大きな覚悟を持って臨んでくれました。私は徐々にログラスのプロダクト開発から離れ、パートナービジネスの責任者としてセールスアライアンスの構築や新卒採用の強化に注力してきました。

さらに、2023年5月に伊藤さんがVPoEに就任して以降、プロダクトや組織の運営は、彼とシニアエンジニアリングマネージャーの飯田さんに任せています。

この2人の活躍により、2022年に15名だった開発組織は現在40名を超える体制へと順調に拡大しました。

CTOの選出理由

ー新CTOとしてどうして伊藤さんが選ばれたのでしょうか?

坂本:伊藤さんが、今後の事業展開に欠かせない方だからです。

伊藤さんは新卒で入社したゴールドマン・サックスで、グローバル規模のプロジェクトを推進し、世界最高峰の技術力と組織力で世の中に大きなインパクトをもたらすスケール感での開発に取り組んだ経験を持っています。

ログラスでは今後、新規事業の継続的な立ち上げと、開発組織のさらなる拡大が重要な課題です。その一環として、海外開発拠点の設立を急ピッチで進めています。このような場面では、技術だけでなく文化の理解とコミュニケーション能力が不可欠です。伊藤さんのグローバルでの経験がなければ、このプロジェクトは実現しないと思っています。

また、直近では導入企業の増加に伴い、取り扱うデータ量が急増し、機能・非機能要件がより複雑化する中で、技術的課題も増えています。伊藤さんは、プロダクト開発チームの最大パフォーマンスを引き出すため、「Enabling & Platform」組織を立ち上げました。このように、技術面と組織面の両方からアプローチできるのが強みだと捉えています。

さらに、私が伊藤さんを信頼しているもう1つの理由は、技術やマネジメントだけでなく、文化醸成にも力を発揮している点です。

伊藤さんは、Tech Value「Update Normal」を策定し、ログラスの開発組織のカルチャーを明文化してくれました。

特に、私は創業者として単に動くソフトウェアを作るだけでなく、実際のユースケースに基づいた価値を提供することを大切にしてきました。エンジニアがお客様のニーズを深く理解し、主体的にアプローチする姿勢を持つことが重要であるという価値観を、改めて組織全体に浸透させたのが伊藤さんです。

Tech Value制定のプロセスでは、多くのメンバーを巻き込み、現在もそれを基軸にしたコミュニケーションや発信活動を推進しています。メンバーもその姿勢に共鳴し、Valueを体現しようとする意識が強まっていったと感じています。

急拡大する組織の中で文化を醸成するのは容易なことではありません。

しかし、伊藤さんや飯田さんを中心に、ログラスの素晴らしい文化と価値観を、拡大する組織に引き継いでくれると確信しています。

ー 新CTOの想いと覚悟-創業者からCTOを引き継ぐことについて、どのように捉えてきましたか?

伊藤:私は入社前から「CTOを担ってほしい」という話を覚悟を持って受けながら、まずは目の前のプロダクト価値の創出と、未来に向けての開発組織拡大の両面に取り組んできました。しかし、その過程においては、「自分にはできないのではないか」と迷い、悩み続けた2年間でもありました。

ログラスはパラシュート人事を行わない会社なので、私は入社直後はフィーチャーチームの一員としてプロダクト開発に取り組んでいました。

ずっと開発をしていたいと思うくらい充実した時間でしたが、一方で自分のバリューを発揮すべきはレバレッジをかけられる領域だと考え、徐々に役割をマネジメントにシフトしていきました。

私自身は入社前からログラスのことをよく知っていましたし、坂本さんのことを本当にすごい人だと感じていました。

だからこそ、入社後は、坂本さんが「創業者CTO」として作り上げた強固なカルチャーが開発組織のDNAとして受け継がれていることをいっそう強く感じ、それが私自身の心理的なブロッカーになっていたのではないかと思います。

この時期、大きな責任を背負う者として、壁を乗り越えたいという想いから社内のコーチでもある松岡さんに依頼し、坂本さんとの2人でコーチングを受けていました。
そこで、私は「坂本さんのDNA・ログラスのDNAを引き継ぐことだけに躍起になっていたが、それがすべてではない」という気づきがありました。自分という存在のDNAも注入して初めてログラスは完成していくということに確信を得られるいい機会でした。

その後、2023年5月VPoEに就任した際、私は18ヶ月後の組織状態を常に考え続けていました。

私の目標に、「未来のログラス社の成長を見据えたエンジニアリング組織基盤ができあがり、そのまま成長していけるモメンタムがつくられている」と掲げており、まさに当時から約18ヶ月後の2024年11月現在、まだ拡充の余地はあれど、ほぼ状態目標を達成できました。

この目標の達成のために取り組んできたことが、開発ロードマップ実現を通じたプロダクト価値の創出と、Tech Value「Update Normal」の策定、「Enabling&Platform領域」の立ち上げと組織づくりです。

これらの取り組みを評価いただき、自信を持って坂本さんからバトンを受け継ぐことができたと思います。

ー 新CTOとして今後の挑戦を教えてください。

伊藤:一番は、グローバル水準の開発組織を作ることです。

まず、現時点でのログラスはすでにグローバル水準で見ても高い自律性を持った非常に稀有な開発組織だと考えています。顧客の価値を生み出すことに真摯に向き合い、日本で事例がほとんどないと言われているFAST※1へのチャレンジと、それが回り始めているという現状こそがその稀有な状態を表していると考えます。ひとりひとりが常に学び適応していく姿勢を貫き、技術力も非常に高い。

ログラスの今後のチャレンジは、この高い水準を保ったままグローバルな横展開を図っていき、スケールしていくという大きなものだと考えています。

そのための第一歩として、現在取り組んでいるのが海外開発拠点の立ち上げです。

日本国内のIT市場は、2030年には人材が最大で約79万人不足することが試算されており、今後ますます優秀なエンジニア人材の確保が難しくなっていきます。(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf

一方、グローバルでみても優秀なIT人材が集中しているのがインドであり、世界中の最先端テクノロジー企業が現在インドでの開発拠点開設を進めています。

このプロジェクトの成功のためにはこれまでの同期的コミュニケーションスタイルや、言語的・文化的な同質性をどんどん変化させていく必要があり、そのプロセスを通じてより強くしなやかな開発組織へと変容していくことができると信じています。

それができると信じられるのも、「Update Normal」というTech Valueを有しているログラスだからこそであり、グローバルレベルで「Update Normal」を体現し続けるのが今後のログラスの開発組織の面白いチャレンジなのだと思います。

組織の未来と次の権限委譲に向けて

ー 今後の開発組織はどのような組織になっていくのでしょうか?

伊藤:ログラスの自律分散的な開発組織においては、究極的にいうとCTOやVPoE、EMのようなリーダーシップ層さえも存在しない状態というのが最終形態なのかもしれない、と思うことがあります。

しかし、その発達過程においては会社組織の行く先を考えるビジネス層や経営層とのコミュニケーションレイヤーのインタフェース、また、組織が円滑に回ることを担保するための潤滑油としての一定の触媒レイヤーが必要であるというのが現実だと思います。

そのため、当面は私やVPoEの飯田さんのようなマネジメントレイヤーが存在し続け、また組織が大きく広がってスケールしていくにあたって特定の事業領域におけるVPoEやCTO、または特定の事業や開発拠点におけるVPoEやCTOのような存在がどんどん増えていくのだと思います。
これは、新規事業の立ち上げや、開発拠点の開設を加速度的に進めていくログラスだからこそできることです。

その過程において例えば新卒や若手として入社してから成長した次世代リーダーにも、開発拠点VPoEやCTOのような大胆な権限委譲をしていけたらと考えています。

※1.自己組織化を重視したアジャイルフレームワークの一種

一覧に戻る